ここは神秘と幻想の世界……
人の力を遙かに凌駕するものが数多く存在し、
解き明かされぬ謎が満ちあふれている。
大地を揺り動かすほど巨大なドラゴン、
闇から闇へと渡る生物、
見たこともない異形の物体……
深い闇に覆われた迷宮、
空に届くほど大きな塔、
果てしなく続く荒野、
誰も踏み込んだことのない大地……
未知という魅力に惹きつけられた冒険者は旅立つ。
その謎めいた世界へ、
その魅力的な闇の中へ……
心に沸き起こる不安と共に、
それ以上の好奇心と共に。
……無謀とも呼べる挑戦であると知りながら。
もし、その挑戦を夢を追うと言うのであれば、
彼らの夢は決して覚めることはない。
なぜなら、
彼らは既に夢の住人にして夢の朋友。
それなくしては生きられない運命を背負いし捕らわれ人。
解き放たれる事なき呪縛の中、
彼らはまだ見ぬ明日の光を夢見る。
明日の冒険へと想いをはせる。
未知なる大地、
未知なる敵、
未知なる秘宝、
何が起こるかわからない冒険。
彼らは立ち止まってなどいられないのだ。
しかし、その冒険は時として
命を落とす危険なものに変わる。
終わりの見えない迷宮、
あまりにも強大な敵、
解き明かせぬ謎、
絶望という名の巨大な壁。
だからといって彼らは
冒険という道を進むことに、
ためらいの吐息を漏らしたりはしない。
むしろ、危険と知っているからこそ、
心が突き動かされる。
……それが、冒険者というものなのだから。
そんな彼らの心の中にも不安はひしめく。
勇気がないわけではない、
臆病になっているわけでもない。
ただ、ほんの少し慎重に進もうという
意思が強くなっているだけなのだ。
故に知り尽くした土地ばかりを歩み、
弱き敵だけを相手にし、
冷めた口調で冒険を語り出す。
心の奥底では何かが違うと
気づいているはずなのに……
そんな慎重になり過ぎた
古参者の意見に耳を傾け、
知恵者になったつもりの若人が群をなす。
まるで逃げ道をそこに求めるかのように……
確かに慎重に進もうとする彼らの意見は正論で、
立派な大人の意見に思えるかもしれない。
だが、忘れてはいないだろうか?
例えどんなに立派に見える木でも、
幹が腐っていては
成る実もたかがしれないことを。
古きものを悪しきと語るわけではない、
新しきを良しと語るわけではない。
ただ、それでは何も変わらぬと、
強き信念を持った冒険者は嘆く。
変化を失った世界が
何の魅力も持たぬ悲しき存在になる事を
知っているからこそ。
だから今は胸を張って未知への第一歩を
確実に踏み出そう。
千里の道も一歩から始まるように、
どんな栄光への道も
不安という晴れない霧の中から
始まるのだから。
汝が自らに偽りを成す
悲しき冒険者にならぬよう、
切なる祈りを込めて
重き一言を最後に告げよう。
どんな不安も希望という名の剣で貫ける。
そして、全てはそこからはじまるのだ。
全ての冒険者が
希望を失わぬ存在であらんことを……
吟遊詩人ミンストレル